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ソーニャとエチカ

次回予告までしておいて二ヶ月放置……
どうもすみませんでした。
このエントリ自体は2〜3週間前から手をつけていたんですが、なかなか上手くまとめることが出来ず……
そうこうするうちにもう大晦日じゃないですか。
今年一年は本当に過ぎるのが早かった。今まで生きて来た中で一番早かったです。
毎年同じこと言ってるような気もしますが。

『罪と罰』最新第7巻、既に発売中です。
今回はこんな表紙。

罪と罰7巻表紙

この帯の宣伝文句は……。
今回同時に増刷してもらった1〜6巻の帯にも同じことが書いてありますが、
これ、嘘とは言わないまでも誇大広告ですよね。僕が言うのもアレなんですけど。
この『最高の本!2010』という本で取り上げていただいたのは事実なんですが、
別にこれ、いわゆるランキング本じゃないんですよ。
各部門一人の選者の人が自分が好きな本を10冊挙げてるだけで、
たまたまマンガ部門の選者の人に気に入ってもらえたというだけなんです。
だからあんまり真に受けないで下さいね。
「全然最高じゃねえよ!」というお怒り、お叱りは、
付属のアンケート葉書に書き込んで双葉社宛にぶつけて下さい。
こういう宣伝方針を決めるのは出版社側の仕事なんで、僕は口出し出来ないんです。



それでは改めまして予告通り、ソーニャとエチカについて。
今回、過去最高の長文になっており、またいろいろ種明かしっぽいことも書いているので、
読むのがメンドクサい人、漫画を楽しむために余計な情報を入れたくないという人はスルー推奨です。
読みたい人だけ下の「続きを読む」からどうぞ。


………どうにか年内更新間に合った。
それでは皆さん、良いお年を。

最近TVやラジオをつけていると、突然「エチカ」という言葉が耳に飛び込んで来て、ビクッとすることがあります。
東京やその近くにお住まいの方はご存知と思いますが、都内数カ所に『エチカ』と名のつく商業施設があり、時々その話題が出る訳です。
一号店の『エチカ表参道』が2005年オープンということですから、残念ながら向こうが先だった訳で、言われてみれば知ってたよ。
覚えていれば別の名前にしてたかも知れません。
(ついでに言うと、例の「草食系男子」という流行語も、世事に疎い僕の耳にそれが届いたのは「草食/肉食」論を作中で持ち出した後のことで………軽々しく流行りに乗ったみたいに見えて、気まずいことこの上ない………)

「英知香」という名前の由来は、原作のソーニャの名前からです。
「ソーニャ」というのは愛称で、彼女の本名は「ソーフィヤ・セミョーノヴナ・マルメラードワ」と言います。
「ソーフィヤ」はいわゆる「ソフィア」で「神の叡智(英知)」を表す名前です。
それをとって「英知香」と。
更に結婚前の旧姓「園山」と合わせてフルネームで呼ぶと「ソノヤマエチカ」。
ソーニャのもう一つの愛称「ソーネチカ」の韻を踏んでいるという訳です。

哲学に興味のある人は、「エチカ」と聞けばスピノザの著書『エチカ』を思い出されることと思います。
せっかくだから関連づけて、『エチカ』から引用でもしてみようかと当初は考えていましたが、
付け焼き刃で勉強しても底が知れる、と思ったので諦めました。
『エチカ』は『倫理学』と訳されていますが、その内容は、
神の存在を論理学(?)の手法で定義づけようとした壮大な思考実験だったようです。
女子の名前としてはいささか硬い印象になりますが、作品のテーマ的にはなかなか因縁めいてて良いのではないかと思っています。



世界文学史上の元祖萌えキャラとして多くの読者から愛されているソーニャですが、僕が最初に原作を読んだときのソーニャの印象は、
「ちょっとエキセントリックすぎやしないか」というものでした。
ラスコーリニコフにも「狂信者だ」と言われるくらいで、固い信仰心に基づいたソーニャの言動は、信仰と無縁の日本人である僕から見ると、ちょっと常軌を逸して見えた訳です。
だから正直、あまりヒロインとして感情移入は出来ませんでした。

ソーニャを語るとき枕詞のようについて来る、「聖なる娼婦」とか「無償の愛」などといった言葉にも、僕は最初懐疑的でした。
ソーニャは酒手をせびりに来たマルメラードフになけなしの金を与えてやります。それが美談のように語られていますが、アル中の人間に飲むと判っていて金を持たせてやるなんて、自殺志願者に毒薬を持たせてやるのと同じことです。
それを愛だと言えるのか?
本当に相手のためを思うなら、金をせびられてもきっぱり断るべきじゃないのか?
ソーニャの自己犠牲は本当に「無償の愛」から出たものなのだろうか。
本人は無自覚でも、この献身によって得られる見返りがちゃんとあり、ソーニャも無意識にそれを期待していたのではないか………
というのが当初僕の頭にあった仮説です。


このような考えになった背景には、昔ちょっぴりかじった心理学の知識がありました。
アル中のヒモに貢ぐのをやめられない女、DV男と別れられない女、彼女たちにそうさせているのは何なのか、という例の問題です。
その後原作を何度も読み返し、また自分の描いた漫画版と原作を比べてみて、
今では「やっぱり『無償の愛』だったのかなあ」と思うようにはなりました。
少なくとも「完全に無償とまでは言い切れなくとも、愛は愛だ」とは言えるのだろうと。
しかしながらエチカが漫画に登場した頃には、まだ世間一般に流布しているソーニャ像を懐疑的に見ていたので、エチカのキャラクターにもそれが反映されることになりました。
エチカと飴屋を親子ではなく夫婦として設定したのは、上記のような心理的背景を描く上で、その方がストレートで分かりやすいと思ったからです。


エチカにソーニャ以上の悲惨な過去を背負わせたことについては、多くの人から「違和感がある」と言われました。
このブログにもかなり激しい調子でご批判の書き込みを頂きました。悪しきセンセーショナリズムではないかと。
悪しきかどうかは分かりませんが、センセーショナリズムということについて否定はしません。
この漫画版では連載のはじめから、敢えて選んで際どいことをやって来たのだし、連載漫画という媒体は常にセンセーショナリズムから無縁ではいられないと僕は思います。
物語の序盤から既にリサが相当酷い目に遭わされていますが、後から登場するエチカがそれより楽な生き方をしていたのでは話にならないという作劇上の都合があります。バトル漫画で強さのインフレが生じやすいのと同様に、こういう漫画では不幸のインフレを避けるのはなかなか難しい。
インフレというのは数が増えて価値が下落することですから、これ以上の不幸は起きないと取り敢えず確定してるこの作品ではギリギリインフレは回避してると思うのですが、どうでしょう?
人の不幸を娯楽として供することについての倫理的なジレンマは常に心にあります。

もう一つ、センセーショナリズムだけでない理由があって、それは19世紀ロシアと21世紀日本の背景の違いです。
キリスト教的な倫理観の縛りが強い当時のロシアで、貧乏とはいえ良家の子女が、いかに家族のためとはいえ体を売らねばならないことは、相当の恥辱だったことと思います。
現代の日本は当時のロシアと比べて性のモラルが大分緩く、年端もいかない子供が遊び半分で体を売るようなことも珍しくはない世の中です。
そのような時代背景の中で、ソーニャが耐えていたのと同等の恥辱をエチカに負わせるためには、より過酷な状況が必要だ、と判断したためこうなりました。
ある程度描き進めた今にして思えば、また別のやり方もあったのではないかと思いますが、まあそれも今だから言えることなので……。
この改変が成功だったか失敗だったかの判断は読者の皆様にお任せします。



その他、ソーニャとエチカの相違点と言えば、
エチカには原作のソーニャだけではなく、マルメラードフの妻・カテリーナが混じっていることもその一つです。
これは飴屋の妻だから……というつもりは当初全然なく、はずみの事故みたいな感じだったのですが、結果オーライです。
単にエチカを元気のいいキャラにしたいと思い、初登場時に飴屋に対して乱暴な態度を取らせたのですが、それがマルメラードフに暴力を振るうカテリーナの姿と符合してしまったという……。


そして一番の違いはやはり信仰心の有る無しです。
信仰という絶対の価値基準を持っているソーニャは、苦しみはしても迷いはしない。
自分のやるべきことが分かっていて、ラスコーリニコフに対してもすぐに彼がやるべきことを明解に示します。
一方エチカは現代の平均的日本人で、信仰心を持ちません。
困難に直面した時、苦しみもすれば迷いもします。
ミロクとエチカ、二人が二人とも迷ってしまったら、この話はどこに流れて行ってしまうんだろう、
と、描いてる僕自身が不安になったりもしたのですが、
エチカは自分の中にある生命力で、ちゃんと迷いを踏み越え、困難を乗り切って行ける人間だということが、最近になって分かって来ました。
エチカについてはもう心配することはないなと。


原作では信仰の問題はきわめて重要なテーマの一つで、それを外して『罪と罰』の物語が成立するのか、という疑問は最初からこの漫画版について回ってきた問題ですが、
僕自身が信仰とは無縁の人間で、それでも原作を読んで感動出来たということが、宗教要素なしでも大丈夫と判断した最大の根拠です。
今後エチカがそのことを体現するキャラになって行ってくれればいいなと、期待しています。
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23:48 | 日記 | edit | page top↑
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